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2012-04-20 00:00:00

10年前のオープン直後、4月の末か5月に入ったころだったと思います。

創業資金の一部を借り入れるべく手続きを行ないました。

窓口の銀行は新宿西口支店。

それまで私が勤務していた総合商社と同じグループの銀行で、会社在籍時には、

所属していた審査関連と不動産営業の両部門の関係で、何度もお邪魔した支店です。

 

支店に行くと、「いつもの」応接室に案内され、担当者を待ちました。

しばらくして、女子行員がコーヒを淹れに来てくれました。

商社時代には「お得意先の私」に当たり前であったこのコ-ヒーのサービスは、

そのときの私には予想外のもてなしでした。

もはや「対等の」会社の肩書きのない、スーツも着ず、ネクタイもしてはいない、

借り入れの手続きに訪れた、一個人事業主にコーヒーが出てくるとは思わなかったのです。

 

「あるひと」を信用し、勧められたオムライスの店。

言われるままに、信じられぬほどの短期間で行った器具備品購入等のもろもろの準備作業。

ファサードから内装まで、全面大改装の工事も突貫。

全くといっていいほど事前のトレーニングなしで、運営態勢も整わないままにオープンした。

 

2002年4月10日。

開店前からろくに寝る間もなく、ぶっつけ本番の開店後の日々は、まるで疾風怒涛、嵐だった。

開店日の朝に届いたレジ機は使用法もわからない。

 

昼休み、開店チラシも打たないのに待ちかねて殺到するお客様。

まるで鬼のように見えた。

店の中は、必要以上にそろえたアルバイトやパート、特別に頼んだ飲食店勤務の助っ人、

妻の友人のヘルプ等で10人はいた。勿論、みんな人件費がかかっている。

 

店側の人間でだけで広くはない店内があふれかえった。

それでいながら、40席のお客に満足な応対ができない。

待たせたあげくに、、オムライスはおろか、ドリンクだけの注文の品さえ出せずに戻るひともいた。

チェ-ン店で十分経験を積んだひとでも、飲食店の新規オープンが大変なのだが、

この場合次元が違った。

適切な指導もアドバイスもしなかった「あるひと」への怒りが爆発しそうになった。

「そのひと」は、開店日にいっぱい来てよかったですねとご機嫌だった。

完全に開店不合格である!

 

実はこんなにお粗末な開店さえ、有効なアドバイスをしてくれる方が開店日直前に、

奇跡的に現れて助けていただいたから、ギリギリできたことだったのです。

何回も引き延ばした開店予定日、もうこれ以上延ばせないが、まったく態勢が整わない。

1週間、いっそ1ヶ月ずらそうか?

悩み抜いた夜遅く、やってきた助っ人がプロのコックとともに現れたとき、

店の柔らかな照明のなかで本当に神のように見えたのでした

 

私は、会社時代の経験からかなりのことには耐えられると思っていたが、

「あるひと」の無責任さは何なくその限度を超える異常さで、過度の疲労のなか、

判断力も感情も失われていきました。

 

開店当時は夜9時までの営業で、長い長い一日が終わり、日付が変わった深夜、

距離的にそう遠くはない帰路、車を運転していて、赤信号待ちのほんの短い時間にも

睡魔が襲ってきた。。

 

大きな資金を投下して、自分は一体何をしようとしているんだ!。

真面目ではあるが、友好的でない女子従業員一人を抱えこの先大丈夫なのか!、

無理が重なり完全に過労状態となった妻まで巻き込んで!。

私自身も、高校時代の同級生だった医師に頭部の変調について相談した。

 

動くのを止めると死んでしまう、生き物のように動き始めてしまったこの店。

もう止めることはできない、

前に進むしかない。

不安と後悔の念が交錯しました。

 

会社員だった時代に度々訪れたその銀行。

親しかった当時の支店長、行員たちはもういないが、見慣れだ部屋のソファーで

コーヒーを一口飲んだときに、ハラハラと流れ出た涙が頬を伝った。

 

暫くして部屋に入ってきた、まだ30歳の手前かと思われる若々しい行員の姿が滲んだ。

私は会社時代にこをよく訪問したことや、お世話になったことを述べたあと、

初期としては高額の借り入れ手続きは順調に進んだ。

 

あれから10年たった現在、とんでもない大人数がいた店側の人間は、ふだんは私と妻の二人。

繁忙期や混雑の時間帯でも、

よく働く気立てのよい女子学生のアルバイトがわずかに一人入るだけである。

 

 

 (注) これはフィクション、創作小説で、特定の人物を描いたものではありません。

    小説は不連続に続きます。

    これまでのHPや、リンクしているブログ「3つのオレンジへの恋の物語」も

    小説と一体の仲間です。

    是非、あわせてご覧ください。