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2011-10-13 11:32:00

 

もし、松雄芭蕉が、三好達治が、ふらりとやってきて、「3つのオレンジへの恋」で

オムライスを食べたら、どのように表現してくれただろうか?

 

芭蕉は、神田川 椿山荘の辺りに滞在したり、新宿三光町界隈、花園神社には句碑があり、あながち的外れな空想ではないのです。

そういえば、文豪漱石だってすぐ傍に住んでいたのだ。

 

 

前回のこのHPでは、俳聖、芭蕉翁の名句「荒海や」と、詩人、三好達治の詩集のなかの「雪」という、二行からなる作品のことを書きました。

 

私は、この一句と、たった二行の短い詩文で、5カ所もの記載誤りをしていました!。

 

芭蕉の句で「佐渡によこたふ」と書いてしまったのですが、「横たふ」が正しいものでした、(注、「横たふ」は、角川文庫版「

俳句歳時記 夏 」によったのですが、「よこたふ」とするものもあり、不勉強な小生は、現時点ではどちらが正しいのか不

明です。)

 

この句は、自然を詠みあげただけでなく、権力争いに破れ佐渡が島に流されたひとや、金山での重労働で、荒海のように悲惨な生活に苦しむひとたちへの、いたわりがあったという。

そして、実際には句を詠んだ新潟県の出雲崎から佐渡の方向に、天の川は見えないそうで、あらためて芭蕉の創造力、人間性に感服します。

 

 

また、詩集「測量船」の3番目の詩である「雪」という作品では、「次郎」が正しいのに「二郎」としてしまい、短い文に4ヶ所ある句読点をつけていなかったのでした。(いずれも訂正)

この作品の前後の詩には句読点はないが、詩集「測量船」全体では、詩文に、句読点のあるものと、ないものとが混在しており、配慮が必要でした。

 

私は俳句も詩も学んだことはありませんが、詩人三好の、命を、身を削るような創造の努力、構想のもとに作られている作品の、句読点はもとより、一字一句、配列、余白、スペースに至るまで、天才による緻密な計算がなされているはずです。

 

 

ところが、三好の生前、名門出版社の看板雑誌で、世紀の誤植ともいえる、恐ろしい事態が起きてしまいました。

わたしごときの間違いではありません。

 

筑摩書房版「現代日本文学大系」、「三好達治集」の巻末、評論集に、そのことが記されています。

河盛義好蔵が、「憂国の詩人・三好達治」という」論評を寄せ、三好の「言葉についてのきびしさ」という文章のなか。

 

河盛は雑誌「新潮」の編集の仕事をしていた終戦後の時期、当時、福井に疎開していた三好に詩作を依頼した。

これを受けた三好は、「いく晩も徹夜して、その間食事はとらずに、引き出しからスルメをちぎって食べただけ」であったという。

 

そして、三好が心血をそそいだその作品が「新潮」の昭和21年12月号に掲載されたとき、事件はおきたのです。

 

その詩は、「横笛」という八十一行の長詩であったが、

横笛を吹くさまの音の表現

    

    ふるるひよう

    ひようふよう

    ふひょう

    ひよう

 

この独創的な笛の音色の描写。しかし、三好の原稿の字が達筆すぎて文字の「う」が、何と、「ろ」に見えたために、全編、15ヶ所の表記をすべて「ろ」として印刷してしまたという!。

 

伝統ある文学専門雑誌で、想像するだに恐ろしい、詩の大家の作品の、詩のいのち、核心にかかわる致命的な誤植が起きてしまった。

 

三好はすぐに、河盛と担当者の連名に宛て、速達で、厳重な抗議を行った。それは巻紙に速筆で荒々しく書かれていたそうだ。

関係者を凍りつかせたであろう、激しい怒り、憤りを伝えながら、さすがに大詩人、文人として品格を失わない、みごとな魂の抗議文。

その一部をここに載せます。

 

地上でもっとも言葉を大切にしなければならない人種。

詩人。

三好達治の深い哀しみ。

 

 

「・・・・この作は写音のくりかへしにかなりの重点があり 

それがこともあらうにこのような甚だしき誤植を被っては

作者は天下に偲びがたき恥さらしの極刑を課された如き感にたへません 

 

ひよう(各字横に傍点)がひよろ(同)になったのでは

詩的効果も糸瓜(へちま)もあったものではありません

ひようふひよう(同)  が ひよろふひよろ(同) になったのでは

滑稽とも何とも名状のしやうもないではありませんか 

 

今晩は此上は何も申上げかねます 久しぶりで目から涙が流れました。

 

この作はいささか努力の作のつもり・・・・・小生の原稿の字体もふたしかなりしためならむも

少々心のかよった読み方をして下さればこの惨虐はたしかに避け得られしならむかと存知ます

 

十五ヶ所重ね重ねの誤植 天下の読者はずいぶん滑稽醜悪と感ぜしならむ

唯今黙しえず以上認めました    早々  」