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2017-01-07 18:39:00

去年のことになりますが、古来から伝わるという石見神楽を初めて鑑賞しました。

石見出身の早稲田大学名誉教授 花本金吾先生が、早稲田の学生に、とくに留学生に是非見てもらいたいと、鎌田総長に話され、その熱い思いが小野講堂で実現したものです。

 

花本先生は子供の頃から、この伝統芸能を秋祭りで見て育ち、今も心に残る思い出になっているそうです。

 

私も小学生のころ、お祭りの日には世田谷区内にある神社の舞台で、厳かに舞われていた神楽を目にし、終日録音テープ(?)で流れていた笛・太鼓も耳にしていましたが、こどもには退屈で、屋台の方に興味が行ったものでした。

 

キャンパス内で見かけた「石見神楽」の立て看板には、“大蛇が火を噴き暴れまくる“と書かれていたので、「神楽と 火を噴くオロチ!」、一体どんなだろう?。

当日、時間帯もちょうどよかったので、目の前の小野講堂に行きました。

 

花本先生のご説明によれば、「神楽」は歌舞伎、能、雅楽同様、日本の伝統的な舞台芸能のひとつで、宗教の式典も神楽が起源なのだそうです。石見神楽を演ずる劇団の数は200もあって・・・「劇団」という意味はこの日の公演を見て理解できました・・・それぞれに30の演目があるそうです。

 

この日は「塵輪(じんりん)」と、「大蛇(おろち)」の2本が演じられました。

 

「塵輪」とは黒雲に乗って飛び回って悪事をなす異国の鬼のことで、第十四代天皇・帯中津日子(たらしなかつひこ)が自ら弓と矢で退治するはなしです。 

前半はスローモーションのように、動作が繰り返されるのが特徴的で、後半の鬼退治では一転してスピーディーな動きに切り替わります。赤鬼の大きな面は、秋田県男鹿半島に伝わる「なまはげ」のようでもありますが、「なまはげ」が粗末なワラの装束に素朴な造りの面であるのに比べ、赤鬼の面は豪華で立派であり、出演者の衣装はすべて大変に華美なものでした。

 

私の小学校時代には、担任の先生が読んでくれた講談社の「日本神話物語」の中のヤマタノオロチにどんなに慄き、荒れ狂う海を沈めるために身を投じたクシナダヒメを哀れに思い、決して立ち入ることのできない黄泉の国を知りました。

 

この日の舞台ではヤマタノオロチ五匹が大暴れし、たしかに「火」も噴いて、小野講堂の舞台せましとばかりにうねり、暴れまわり、その迫力たるや「神楽」であることを忘れるほどの一大スペクタクルを展開しました。

 

後でお聞きしたところでは、オロチは本来八匹なのですが、演じておられるみなさんはそれぞれお仕事があり、この日は都合で五匹になったそうです。それでも、小野講堂の舞台をいっぱいに使ってとぐろを巻き、火を噴き、次からつぎと飽かせず、暴れまくる大蛇の演技・演出は見ごたえ見どころ十分。週一回集まって稽古練習をしているそうですが、見事なチームワークでした。

 

活躍したのは「演者」だけではありません。

神楽でお馴染の日本の音色・・・横笛に和太鼓と鳴り物・・・・特に横笛は終始絶えることなく旋律を奏で、ときには割くような鋭い効果音となって、「最少のオーケストラ」もまた見事なものでした。「お祭り」のときに耳にしていた一寸退屈な「音」は、本当はこれほどに劇的で魅力のあるものだったのです。

 

きらびやかで美しい豪華衣装は何百万円もする高価なものだそうで、歌舞伎役者が身に着けるような立派なものでした。「神楽」「伝統芸能」「古色蒼然」いうイメージは、あっさりと裏切られてしまいました。

 

バスを仕立てて、この日の公演のために並々ならぬご尽力をされたとお聞きしている花本先生。石見の郷土芸能はもはや芸術の域に達していました。

 

ワグネリアンの私は、「石見のオロチ」は、世界の檜舞台「バイロイト音楽祭」における、楽劇「ニーベルングの指輪」第二夜「ジークフリート」で、大向こうの意表をついて、森の中で黄金を守るおそろしい大蛇の役で登場できるのではと、勝手に思ったりも。

 ♪ 東西古今の文化のうしお 一つに渦巻く、です。

 

唯一残念だったのは、この日の客席に外人留学生の姿は目立たったものの、満席にならなかったことで、まことにもったいないことでした。もし次の機会があれば、微力ながら私もPRに努め、関係者みなさまのお役にたてればと思っています。

 

今年は「3つのオレンジへの恋」を巡って、どのような感激のドラマが生まれることでしょうか。

「美味しい」「美味しかったです」の声で年が明けました。